スワップは、口座残高を「静かに」削っていく取引コストです。スプレッドや取引手数料ほど目立たないのに、保有時間が延びるほど重くのしかかります。だからこそ、オーバーナイト(持ち越し)を少しでも行う戦略なら、スワップを“見える化”して意思決定に組み込むことが、期待値(Expectancy)を守る最大の防御になります。
スワップとは?
なぜ発生するのか(金利差の受け払い)
異なる金利の通貨をまたいでポジションを保有すると、毎営業日、金利差に応じた受け取り/支払いが発生します。これがスワップ(スワップポイント)です。方向や銘柄、ブローカー条件によって、受取(プラス)にも支払い(マイナス)にもなり得ます。
いつ計上されるのか(ロールオーバーと水曜3倍)
スワップはニューヨーク17:00のロールオーバー時に一括計上されます(日本時間の目安:夏時間は翌朝6時頃、冬時間は翌朝7時頃)。週末2日分を前倒しで清算する慣行により、水曜日はスワップが3倍になります。良くも悪くも、水曜持ち越しのインパクトは大きくなります。
スワップが付加される仕組み
計上の流れ
- ブローカーが銘柄ごとに「Swap long/Swap short(1ロット・1日あたり)」を提示
- ロールオーバー時に自動計上(水曜は×3)
- 表示は「口座通貨建て」または「ポイント(points)」のいずれか
- 祝日や流動性状況で例外調整が入る場合あり(各社の告知に従う)
単位と換算の注意点
表示が「points」の場合は、points → pips → 金額の順で換算します。一般にEURUSDなら1.0 pips=$10/ロットが目安です(口座通貨や銘柄で異なるため各社仕様を確認)。
「隠れコスト」としてのスワップ

なぜ「隠れコスト」として機能するのか
プラスのスワップとマイナスのスワップが同じ大きさで対称なら、長期平均ではコストになりにくいはずです。しかし現実は上図のとおり、マイナスの方が圧倒的に大きいか、両方向ともマイナスであるケースが目立ちます。結果として、方向が半々でも期待スワップ(=(Long+Short)/2)は多くの銘柄でマイナスとなり、保有時間がそのまま目立ちにくい固定費へと変わります。
- XAUUSD:(−78.078 + 18.914) / 2 = −29.582/日(負が大幅に優勢)
- EURUSD:(−12.661 + 2.163) / 2 = −5.249/日(非対称で純マイナス)
- USDJPY:(+7.266 − 23.782) / 2 = −8.258/日(ショート側の負担が勝つ)
- AUDUSD:(−3.916 − 1.386) / 2 = −2.651/日(両方向マイナス)
この構造的不均衡と水曜日の3倍計上が積み重なることで、スワップはスプレッドや明示的な手数料よりも損益を密かに侵食します。したがって、銘柄・方向・保有時間を問わず、スワップは常に“総コスト”として設計・管理すべき指標です。
なぜ軽視されがちなのか
スプレッドや手数料は発注時に即座に可視化されますが、スワップは保有しているだけで日次で積み上がるため、実感しづらい“固定費”です。方向によっては受け取れる日もありますが、ロングのマイナスがショートのプラスより大きいなど、非対称な条件も珍しくありません。
期待値(Expectancy)への影響
エッジ(優位性)の源泉が小さい戦略ほど、スワップの累積が期待値を圧迫します。持ち越し頻度や平均保有時間、曜日(特に水曜)を設計に織り込まないと、知らぬ間にパフォーマンスが目減りします。関連記事:トレードの期待値とは?勝率×損益比で「勝ち続ける」基礎ガイド
スワップの確認方法
MT5(推奨)の手順と画面の読み方
- 気配値表示(Ctrl+M)を開く。ツールバーの「S」= Symbolsボタンから開いてもOK。
- 調べたい銘柄(例:EURUSD)を選択し、右クリック → 「仕様(Specification)」。
- 仕様パネルで次を確認:
- Swap type(単位)… 画像例はIn points=ポイント表示。
- Swap long / Swap short… 画像例は−10.144 / +4.336(1ロット・1日あたり)。
- Swap rates(曜日倍率)… 画像例ではWednesday=3で水曜は3倍計上。
単位が「In points」のときの換算(画像のEURUSD例)
- EURUSDは5桁表示のため1 point=0.1 pips。1ロットで1 pip=$10 → 1 point=$1が目安(口座通貨がUSDの場合)。
- よって Swap long −10.144 points ≒ −$10.144/日/ロット、Swap short +4.336 points ≒ +$4.336/日/ロット。
- 水曜は倍率×3:ロング −$30.432、ショート +$13.008。
一般式: 金額(口座通貨)= Swap値(points) × 1pointの金額 × ロット数 × 日数 × 曜日倍率
※口座通貨がUSD以外でも、MT5が自動換算して口座通貨建てで計上します。
「In money/In percent」表示の場合
- In money:すでに金額表示(口座通貨 or プロフィット通貨)。そのまま日数・倍率を掛け算。
- In percent per annum:年率換算のため、ブローカー仕様に沿って日割り計算(多くは360/365基準)。不明な場合は履歴のSwap列で実際に計上された金額を確認。
ブローカーサイトでの確認ポイント
- ロールオーバー時刻(夏時間/冬時間の切替)
- 水曜3倍の適用と対象銘柄(休日繰り越しの例外日を含む)
- 表示単位(In points / In money / In percent)と計算基準
MT5の取引履歴でスワップレートを確認する方法

① 口座履歴を開く
Ctrl+Tでターミナルを表示 → 下部タブの「口座履歴」を選択。期間は右クリックで「全履歴/3か月/カスタム期間」から指定できます。EAや銘柄(例:XAUUSD)ごとにチェックしたい期間を絞り込みましょう。
② スワップ列を表示する
- 履歴の表内で右クリック。
- Columns(列) → Swap(スワップ)にチェックを入れる(必要に応じてCommission(手数料)もオン)。
- 表にSwap列が追加され、各取引で受け払いされたスワップ(金額)が表示されます。
③ 合計スワップを読み取る
画面下部または合計行に、期間内の合計スワップが集計表示されます。画像の例では、XAUUSDで稼働するEA(Gold Crab Robot)の履歴でスワップ合計 −12.34、手数料合計 −4.08。つまり、
−12.34 ÷ −4.08 ≒ 3.0倍
――スワップのマイナスは取引手数料の約3倍に達しており、どれほどスワップが隠れコストとして損益に影響するかを雄弁に物語っています。「勝っているはずなのに残高が伸びない」──その原因がスワップにあるケースは少なくありません。まずは履歴で事実を可視化し、戦略や保有時間(水曜×3を含む)を設計に組み込みましょう。
数値で体感:総取引コストの計算例
前提条件(EURUSD・1ロット・1日保有)
- スプレッド:0.2 pips → $2(0.2 × $10)
- 取引手数料:往復 $7
- スワップ:ロング −$10.144 / ショート +$4.336
ロングを1日保有した場合
総コスト=スプレッド$2 + 手数料$7 + スワップ$10.144 = $19.144
(水曜はスワップ3倍 → $2 + $7 + $30.432 = $39.432)
ショートを1日保有した場合
総コスト=スプレッド$2 + 手数料$7 − スワップ$4.336 = $4.664
(水曜はスワップ3倍 → $2 + $7 − $13.008 = −$4.008 ※コスト超過分を受取)
ロング/ショートの非対称性(格差)
絶対値差=$10.144 − $4.336 = $5.808(≒$6)。ロング優勢の戦略ほど、この目に見えない逆風が期待値を削ります。
方向が半々の戦略(期待スワップ)
期待スワップ=(−10.144 + 4.336) / 2 = −$2.904 / 日
平均総コスト=$2 + $7 + $2.904 = $11.904 / 日(水曜は期待スワップ×3 → ほぼトントンに近づく)
月次インパクトの試算
ロング80%の戦略なら、平均スワップ=0.8×(−10.144) + 0.2×(+4.336) = −$7.248 / 日。
総コスト=$9 + $7.248 = $16.248 / 日。20営業日持ち越すと、スワップだけで約−$145(≒−14.5 pips)に相当します。
関連記事:FX取引コスト(スプレッド、手数料、スリッページ)の解説
スワップフリー口座で取引コストを低減する
スワップは無視できない取引コストです。スワップフリーの口座を利用することで取引コストを低減できる可能性があります。
イスラム口座の原則
一般的なスワップフリー口座は、原則としてイスラム教の利子禁止の要件に基づき、イスラム教徒である証明が求められます。従って、非ムスリムは基本的に利用できません。
非ムスリムでもスワップフリー口座を利用できるブローカー
一部ブローカーでは、非ムスリムでも利用可能なスワップフリー(実質スワップ0)口座を提供する場合があります。
例:HF Marketes(HFM)、Exness
一部手法(裁定・スワップ狙い等)のスワップフリー悪用禁止の条件が付帯しますが、通常のトレードをする分には問題にならないケースが多いです。
※条件・地域適用・期間・規約違反時の措置(遡及課金・口座制限など)は必ず確認してください。
実務で守るチェックリスト
設計・検証・運用の3視点
- 設計:戦略KPIに「保有時間」「日跨ぎ頻度」「水曜回避率」を追加
- 検証:バックテスト/フォワードで方向別・曜日別にスワップを反映
- 運用:ブローカー比較は「スワップ込みの総コスト」で行い、必要に応じて水曜ロール前の一時クローズも検討(再エントリーのスリッページとトレードオフ)
まとめ
要点は3つ。①スワップは「保有時間×日数」で雪だるま式に効く固定費、②多くの銘柄でロング/ショートが非対称か両負で平均的に純コストになりやすい、③水曜3倍がインパクトを増幅させる――この構造を理解して、設計(保有時間KPI)→検証(スワップ込み)→運用(総コスト最小化)の流れに組み込むことが、期待値を守る近道です。MT5の「仕様」と「口座履歴」で実測値を常時チェックし、必要ならスワップフリー口座やブローカー変更、持ち越し回避などの打ち手で総コストを可視化・制御していきましょう。
FAQ
- Q. スワップはいつ計上されますか?水曜日が3倍になる理由は?
- A. ニューヨーク17:00のロールオーバー時に1日分が計上されます。週末2日分を前倒しで清算する慣行のため、原則として水曜日に3倍で計上されます。
- Q. MT5でスワップを確認する方法は?
- A. 気配値で銘柄を右クリック→「仕様」でSwap long/shortと単位を確認。口座履歴では右クリック→「Columns→Swap」で取引ごとの実計上額と合計を確認できます。
- Q. 「In points」「In money」「In percent」の違いは?
- A. In pointsはポイント表示(例:EURUSDなら概ね1point≒$1/ロット)。In moneyは金額表示、In percentは年率表示でブローカー基準に沿って日割りします。
- Q. なぜスワップは「隠れコスト」になるのですか?
- A. 多くの銘柄でマイナス側が大きい、または両方向がマイナスのため、方向が半々でも平均的に純コストになりやすく、水曜3倍も重なるからです。
- Q. スワップ負担を減らす実務的な方法は?
- A. 持ち越し頻度と保有時間を下げる、水曜ロール前後の保有を避ける、スワップ条件の良いブローカーへ移行、(条件を満たすなら)スワップフリー口座の活用などが有効です。
- Q. 非ムスリムでもスワップフリー口座を使えますか?
- A. 一部ブローカーでは可能ですが、管理手数料・対象銘柄や期間の制限・裁定取引の禁止など条件が付きます。規約と地域適用を必ず確認してください。
- Q. スキャルピングでもスワップは影響しますか?
- A. 日をまたがなければ基本的には計上されません。ただしロール直前直後の約定品質や再エントリーコストには注意が必要です。
